No.176 特訓 〜1回表〜
なかなか「喉元を通らない暑さ」だったとはいえ
朝晩の風のおかげでようやく夏を忘れつつある感の10月。
私は愛犬と共に夜の散歩へ出かけた。
その晩は温度、湿度、風と非常にさわやかで
私は彼女(愛犬の事である)の散歩への意欲を
リード越しにビシビシと感じる事ができた。
「なるほど、今日は特訓の日だな」
うちの犬は今年で3歳になる。
元々運動量の多い犬種であることは承知していたが
子犬の頃、有り余るほどの体力に我々は度肝を抜かしたのだ。
そして、ある二文字が私の脳裏をよぎることになる。
「特訓」… 今では言葉の倉庫の奥の方にしまわれているであろうこの言葉。
特に今の子供たちの世代はネガティブなイメージをも持っているかもしれない。
だが、私達の年代以上の先輩方はこの言葉に不思議なパワーと魅力を感じるのだ。
苦しい特訓の向こう側に横たわる、甘美な何かを手に入れたいと熱望してしまう。
これは性癖と言ってもよいだろう。
こうして、若いころのピカ(愛犬の事である)と私はよく特訓を行った。
季節はまさに中秋の頃、散歩に2時間半。
およそ6キロの道程を2人で速足で歩くのが我々の特訓である。
その間、どちらかが音を上げたら特訓の終了となった。
大抵は人間たる私が白旗を掲げたのであるが。
今日は彼女の引く手綱に力を感じる。特訓を求めているのだ。
私は彼女を見て軽く頷いてから、こめかみに力を入れた。
久しぶりの特訓が、今始まろうとしている。
(1回裏へつづく)