No.188「震える夜(6回裏)」
吾輩はピカである。 東京大学へ行ってきたのだ。 東京大学の農学部の入り口には私と同じ犬の銅像がかざってあった。「ハチ公」と書いてあったぞ。
さて、そこに行ってからは、私はずっと具合が悪い。飯はのどを通らない。
歩くのもうまくいかない。おまけに11月に入ってから以上に寒いのである。
朝の散歩はトーチョンの腕の中で外の景色を眺めるだけになってしまった。
カーチョンはいつも涙を浮かべて私のご機嫌を伺いに来る。
一度のご飯をたべるまでに30分はかかる。
悪いとは思っているが、全部を食べられるわけもない。
そして、トーチョンカーチョンが仕事に出ている間にほとんどすべてを吐き出してしまうのだ。
昼間に帰ってきたカーチョンが、私の部屋にある嘔吐物を見てなんとも言えない表情で溜息をつく。
一日が「終わらない時間」に支配されているようだ。
その夜のことだ。
私は体に電流が走るのを感じた。
今夜はそれほど寒くはないのだが、気が付けば体が震えている。
トーチョンが珍しく気を利かせて毛布を私にかけて包んでくれた。
しかし、震えが収まる事がない。私の体に何が起きているのだろうか?
長い夜があける。
私はトーチョンとカーチョン二人と、車で出かけた。
いつもの病院ではない。 東京大学でもない。
車で10分ほどの見たこともない病院だ。
入ってみると、なんだか嗅いだことのある匂いがする。
そうだ、お隣のお年寄り犬の「ウニ」おばあちゃんからする匂いだ。
そういえば昨日カーチョンが庭でお隣の奥さんと話し込んでいた事を思い出した。
しかしながら…。
30分ほどで病院から出たのだ。
カーチョンもトーチョンもあまり浮かれていない。
いいことは起きなかったのだろう。
もしかすると、私はこのままいなくなるのだろうか?
(7回表へつづく)