No.186 カートでGO!(5回裏)
吾輩は犬である。河野家に来てから、はや3年。最近はとてもだるい。
そんな私をおもんばかってか、トーチョンとカーチョンは最近新しいガジェットを私に授けてくれた。「カート」というのだそうだ。
散歩がきつくなった私に足代わりとして買ったらしいのだがこれがまた気に食わない。 私の思ったように動いてくれないのだ。
動くのを決めるのは私ではない。 カートを押しているトーチョンである。
私は右に行きたいのにトーチョンは気が利かないので左へ行く。
もしくはボーっと空を眺めながら、大きな口を開けてあくびをしている。
本当に使えないニンゲンとはこういう事をいうのだろう。
こんな時私はカートの中のクッションにうずくまり怒りを抑える努力をする。
人間世界では「アンガーマネージメント」というのだろう?
こんなたやすい事に金を払う人間がいるのがお笑い草だ。
それに比べるとカーチョンはまだましだ。いろいろと気が付くのでしきりに水を勧めてくる。
「ノマナイトダメヨ」という呪文をいつも唱えている。
私はサカナではない。そんなに水ばかり飲んでいたら腹がタップタプになってしまう。こういうところは癇に障る。私は最近、カーチョンに「ミズババ」というニックネームを付けたところだ。
そして、ミズババの思惑通りなのか、最近おなかがとても出てきてしまった。
急激に出てくる腹を見ると、情けなくなる。
くびれたウエストが私のチャームポイントだ。
ダイエット不可避だろう。
さて、いやいやながらカートに乗り、見慣れない場所の散歩をしている。
外にある大きな門。くすんだ赤に塗られた門をくぐる人間の顔つきはそこはかとなく理知的で、賢い。
トーチョンと正反対である。
門の横でなぜかカーチョンことミズババと記念写真を撮る。
彼女は何となく悲し気な顔だ。
そして我々は「東京大學」と書かれた札の横を通り過ぎ、銀杏並木の黄色い葉が降り注ぐプロムナードを歩いていく。
(6回表へ続く)